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名古屋地方裁判所 昭和53年(ワ)856号 判決 1979年2月27日

原告 国

代理人 高崎武義 竹田盛之輔 綾部康弘

被告 筒井福松

主文

一  被告は原告に対し、金二四二万円及びこれに対する昭和五〇年一二月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  訴外森そわは、昭和三三年三月一八日、被告から別紙物件目録記載の土地(以下、「本件土地」という。)を買い受け、同日、名古屋法務局南知多横須賀出張所(現在は東海出張所)に対してその旨の所有権移転登記を申請したところ、同出張所登記官は、同日同出張所受付第八二五号をもつて右申請を受理した。しかるに、右出張所登記官は、右所有権移転登記手続における登記の実行に際し、登記簿上本件土地所有権の取得者をその買受人である森そわとすべきところ、誤つて売渡人である被告の筒井福松を買受人とし、被告名義で所有権取得登記を了してしまつた。

2  その後、被告は、前項のとおり既に本件土地を森そわに売却ずみであるにもかかわらずその登記名義が自己名義になつているのを奇貨として、昭和四五年四月二八日、訴外加藤寿美夫外三二名に対する損害賠償債務の代物弁済として本件土地外一筆の山林を譲渡し、右同日、加藤寿美夫を除くその余の三二名は加藤寿美夫に対し、右譲渡を受けた本件土地に対する各持分三三分の一(合計持分三三分の三二)を総額金二四二万円で売り渡し、同年五月一四日、被告から加藤寿美夫に対し、名古屋法務局東海出張所受付第六二九五号をもつて所有権移転登記(持分三三分の三二については中間省略登記)手続がなされた。

3  ところで、森そわは、その後自己所有の本件土地の登記簿上の所有名義が加藤寿美夫になつていることを発見し、昭和四七年一〇月二日、同人を被告として愛知中村簡易裁判所に所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴を提起し、原告は、昭和四八年四月四日、右訴訟事件において森そわの補助参加人となつた。

右訴訟事件は森そわの勝訴となつたが、その控訴審において、昭和五〇年一一月一〇日、森そわ、加藤寿美夫及び原告の三者間で、本件土地を森そわ、加藤寿美夫の両者で折半し、かつ、原告が右両名に対して損害賠償としてそれぞれ金一二一万円を支払う、との要旨の和解が成立したので、同年一二月一五日、原告は右両名に対し、それぞれ金一二一万円の和解による損害賠償金の支払をなした。

4  ところで、原告は、前記損害賠償金二四二万円の出えんを余儀なくされたが、これは前記1、2で述べたとおり、原告の登記官が過失によつて誤つた登記をしたことと、被告が右過誤登記により本件土地の所有名義が被告になつているのを奇貨とし、既に売却ずみの同土地を自己所有地であると偽つて、更に加藤寿美夫外三二名に二重譲渡したことに基因するが、右事情からすれば、原告は被告に対し、右金二四二万円の全額につき求償権を取得したというべきである。

5  よつて、原告は共同不法行為者である被告に対し、求償債権金二四二万円及びこれに対する原告が右金員を森そわ外一名に支払つた日の翌日である昭和五〇年一二月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、被告が加藤寿美夫外三二名に対し、昭和四五年四月二八日、本件土地外一筆の山林を代物弁済として譲渡したことは認めるが、その余の事実は否認、もしくは不知。

3  同3の事実は不知。

4  同4、5は争う。本件は絶対誤りを許されない登記官の重大な過失によつて生じた事件であるので、原告が全責任を負うべきものであるし、そもそも加藤寿美夫は何ら損害を蒙つていないのに原告は同人に金一二一万円もの大金を勝手に支払つたのであつて、被告が原告にこれを支払う理由は何もない。

第三証拠 <略>

理由

一  請求原因1の事実、および被告が加藤寿美夫外三二名に対し、昭和四五年四月二八日、本件土地外一筆の山林を同人らに対する被告の損害賠償債務の支払に代えて譲渡したことについては当事者間に争がない。

二  <証拠略>ならびに弁論の全趣旨を総合すると、加藤寿美夫外三二名が被告から代物弁済により取得した本件土地(各持分三三分の一)につき、加藤寿美夫を除く三二名は加藤寿美夫に対し、昭和四五年四月二六日、それぞれの各持分を総額金二四二万円で売り渡し、名古屋法務局東海出張所同年五月一四日受付第六二九五号をもつて被告から加藤寿美夫に対し、本件土地につき、所有権移転登記手続(持分三三分の三二については中間省略登記)を経由したこと、森そわは、右登記の事実を知つて昭和四七年一〇月二日愛知中村簡易裁判所に対し、加藤寿美夫を被告とし同人名義の前記所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴を提起し、その後、原告が右訴訟事件につき森そわの補助参加人となり、同事件は昭和四九年五月八日森そわの勝訴となつたのであるが、その控訴審において、昭和五〇年一一月一〇日、森そわ、加藤寿美夫及び原告の三者間で原告主張の如き内容の和解が成立し、同年一二月一五日、原告は右和解に基づいて森そわ、加藤寿美夫に対しそれぞれ金一二一万円を支払つたこと、以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠は存在しない。

三  以上認定の事実によれば、原告の前記金二四二万円の出えんは、被告が自己所有であつた本件土地を既に森そわに売却しながら、登記官の過失による過誤登記により同土地の登記簿上の所有名義がいぜん被告名義のままになつていることを知り、これを奇貨として、同土地を更に加藤寿美夫外三二名に対する自己の債務の弁済に代えて譲渡したことに全てが起因して発生した原告と被告の共同不法行為による損害賠償金の出えんであり、原告は右出えんにより被告に対しその負担部分の求償をなし得るものというべきであるところ、前認定の事実によつて認められる被告が本件によつて受けた利益等の事情を考えるならば、被告の右負担部分は原告の出えんした金二四二万円の全額に及ぶものとみるを相当と解すべきである。

四  以上の次第によると、被告は原告に対し、求償金二四二万円とこれに対する原告が右金員を森そわ、加藤寿美夫に支払つた日の翌日である昭和五〇年一二月一六日から右支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負うことは明らかである。

よつて、原告の本訴請求は理由があることになるのでこれを認容することとし、民事訴訟法八九条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大橋英夫)

物件目録 <略>

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